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School

とどろみの森学園 箕面市立止々呂美小学校・中学校

2008Complete

CAt小嶋一浩赤松佳珠子

Other use | Public

200㎡/人と20㎡/人

このプロジェクトの、開校時の児童・生徒一人あたり面積は200㎡を優に超える。もちろん公立の学校であるから最終的な想定は20㎡を下回るのだが、ギャップが一桁以上あるのだ。この数字は、低密度だから優雅であるなどということを突き抜けて、空間とヒトの集団のアクティビティとの応答について、別の思考を要求してくる。

税金を投入して造る空間であるからには、もちろんあらゆる事柄は説明可能性を突き詰めて設計・決定されている。しかし、私たちがこのプロジェクトで本当に考え抜いたのは、個別の説明可能性を超えた空間の構えのようなことであったと思う。

『とどろみの森学園』は、「明治の森 箕面国定公園」に隣接した、箕面市北部(止々呂美)地区における余野川ダムの水際空間や周辺の豊かな自然を生かしたニュータウンとして今年オープンした、区域面積314ha、住宅計画戸数2900戸の「水と緑の健康都市・箕面森町」で最初の学校である。とはいっても、新設校ではなく、このニュータウンに隣接する既存の止々呂美地域に以前からあった小・中学校が、ニュータウン内にできた新しい校舎に移る計画であり、設計段階から多くの止々呂美地域の人たちや先生方との打ち合わせを経て完成した学校である。われわれが以前手がけた千葉市の打瀬小学校(’95年竣工)や、岡山の吉備高原小学校(’98年竣工)などと同様に、就学期児童を持つ家庭の呼び水としての期待が込められていると同時に、隣接する新・旧両方の地域の子供が通うこの学校には、両方の住人たちをつなぐコミュニティの核となることも期待されている。

この学校の大きな特徴は、小・中一貫校であると同時に、開校当初は9学年合わせて60人前後と極めて少人数なことである。また、地域的には悲惨な事件のあった池田小学校と近く、セキュリティの要求は計画当初から明確に求められていた。

敷地は、ニュータウンの東端、既存の止々呂美地区との境界部分で、南側に止々呂美地区への眺望がある高台に位置する。もともと起伏があった場所をフラットに造成したこともあり、(造成工事スタート直前に、既存の地形をそのまま生せないか交渉したが、一度造成工事発注プロセスに乗ってしまったが最後、一瞬にして樹木はなくなり、フラットな場所になってしまった。)敷地の北側1/3が30mを超える盛土であるため、建物は主に南側2/3の切土部分に配置した。また、既存の止々呂美地域からの登下校ルートとして、山を切り開いた山道ができ、そこに直結した南門を設け、ニュータウン側の登下校ルートとなる北側の正門との間を子供たちの主要動線としてつなぎ、正門にある警備小屋からの視線が通る計画としている。

今まで我々が手掛けてきた学校の多くでは、体育館やプールを校舎の中に一体的に取り込む計画としてきたが、今回、その両方を含めた約9500㎡を一体的な建築とすることは、開校時想定の40名足らずの生徒数に対してあまりにも茫洋と広くなりすぎて、アクティビティ面やセキュリティ面などで望ましくないと考えた。そこで、まず生徒の生活の核となる校舎棟を68m×68mの2階建てとしてコンパクトに作った上で、視覚的・体験的には校舎内部のシークエンスとシームレスにつながるように体育館とプールを配置した。また、小・中の9年間を6・3ではなく、4・3・2の前・中・後期としてとらえる教育プログラムから、9学年全体が緩やかな関係性を持てるよう同じフロアに配置することが重要だと考えた。 その為、校舎棟の1階部分は中・後期用特別教室と管理諸室を、2階部分には1年~9年生までのすべての教室(予備教室としてのワークルーム含めて13教室分)と前期用特別教室、生徒用昇降口など、生徒の主要な生活空間を配置している。また、2階の外部床をウッドデッキとすることで、2階にありながらも平屋的な教室廻りの空間となっている。


校舎棟は壁式構造とすることで型枠をシンプルにし、全体の偏心を抑えて剛性を高め、また設備は梁貫通として、天井懐を可能な限り減らす、など合理的な計画とし、コストコントロールを行うと同時に、4mグリッドで梁下有効2150(梁成1600)というモデュールのRC格子梁天井によって空間全体に強度を持たせている。また、外周部では梁下有効2600とし、かつ平面的にも外へ対して閉じる方向の袖壁が出てこないようにすることで、教室から外部に対する視線の抜けと全体的な透明性を確保している。

平面計画としては、前期4年生までをオープンプランタイプ、中・後期の5~9年生はガラスの間仕切りと建具を使ったセミ・クローズタイプとしている。 また、新しい住宅地の開発に伴う生徒数の増加を考慮に入れ、ワークルームを教室のバッファーとして教室間に配置した。さらに、中・後期は将来の教科教室対応を視野にいれ、教室に隣接したロッカースペース(LS)を生徒の生活拠点として設けている。このような、9学年制の教育システムに対する段階を追ったフレキシビリティの確保と同時に、人数の増加に対するフレキシビリティを考慮した結果、現在オープンなところにも、レール一本を追加することで簡単に同一寸法の欄間なしの建具が入れられるとの意味からも梁下2150のモデュールを採用している。

1階には、主に特別教室と管理諸室を配置すると同時に、プレイルームと図書室、音楽室が中央部を切り取るように配置されている。通常の中庭のような、ぽっかりと大きく開いた外部空間ではなく、内部が拡張したような中庭とすることで、少ない生徒のアクティビティが相互に見え隠れしながらつながっていく密度を保ちたいと考えた。中庭空間では、68m角の中の離れた相互間をつなぐ視線上に、時間帯によって違う光の面が現れるように斜めの壁を配置し、空間全体に動きを与えている。そのちょっとした角度の振れが、2階のデッキスペースにも影響を及ぼしている。

アリーナ棟は全体の西側に配置し、中・後期の教室空間から流動的につながるよう、東側トップライトの光を受けた天井が校舎棟からの視線の先に現れる配置としている。また、南北面は外部に対してオープンなしつらえとし、低学年グラウンドから南側の谷筋へと向かう視線の抜けと風の流れを取り込んでいる。

DATA

所在地 大阪府箕面市
用途 小学校・中学校
構造 RC一部S+SRC造
規模 地上3階
敷地面積
建築面積
延床面積
35,947.00㎡
6,342.86㎡
9,582.85㎡
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